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素粒子物理学でよく問題となる物質の安定性と粒子の崩壊について述べる.歴史的な観点から元素の周期律を議論の出発点とする.元素の周期律は非常に多く存在する分子の分類の指標として理解できるが,次のようにとらえなおす.
図1に示すように,1つの分子はエネルギーEが与えられると複数の元素(原子)に分解する.

ここで,ある粒子Xから複数の粒子が得られる現象を粒子Xの崩壊と定義する.図1に示す現象は1つの分子から複数の原子が得られる現象であるので定義により分子の崩壊である.そして,この崩壊によって得られた原子は分子の内部を構成する粒子と解釈される.分子の崩壊によって生じた複数の原子からなる状態は分子であったときの状態よりエネルギーEによってエネルギー的に不安定である.そのため,単純な分子であれば,自然に分子の状態に逆戻りして安定する.例えば2つの水素原子が1つの水素分子になって安定する.
ところが,分子の崩壊によって得られた原子は単独ではきわめて安定である.例えば1つの水素原子が他の原子に変換することは核反応を除くと通常ありえない.また,分子についても分子は他の分子と化学反応はするが,単独では安定である.このことから,分子の安定性の根拠は原子の安定性にあるということができる.論理学的に表現すると,原子が安定であるならば安定な分子が存在するということである.
以上の議論を原子の内部構造について行うことにする.
図2に示すように,1つの原子はエネルギーEが与えられると原子核と電子に分解する.
1つの原子が原子核と電子に分解したので定義により原子の崩壊である.そして,この崩壊によって得られた原子核と電子は原子の内部を構成する粒子と解釈される.ただし,電子は1種類しか存在しないが,原子核は多種類存在する.原子の崩壊によって生じた原子核と電子の状態は原子であった状態よりエネルギーEによってエネルギー的に不安定である.そのため,原子核と電子は自然に原子の状態に逆戻りして安定する.例えば1つの水素原子核と1つの電子は1つの水素原子となって安定する.
ところが,原子の崩壊によって得られた原子核と電子はそれぞれ単独ではきわめて安定である.例えば1つの水素原子核が他の原子核に変換することは核反応を除くと通常ありえない.このことから,原子の安定性の根拠は原子核と電子の安定性にあるということができる.論理学的に表現すると,原子核および電子が安定であるならば安定な原子が存在するということである.
さらに,原子核についても同様の議論を行う.
図3に示すように,1つの原子核はエネルギーEが与えられると複数の核子に分解する.核子には陽子と中性子がある.
1つの原子核が複数の核子に分解したので定義により原子核の崩壊である.そして,この崩壊によって得られた核子は原子核の内部を構成する粒子と解釈される.
エネルギーEによって原子核は崩壊したが,これによって得られた核子を単純に複数集めても自然に原子核に戻るということはない.原子核の安定性および原子核生成の過程はこれまでのようなエネルギーEだけを考慮した議論では説明できない.
また,陽子は単独ではきわめて安定であるが,中性子は単独では不安定でβ崩壊といわれる過程で陽子になる.β崩壊はn→p+e−+νであるから上で定義した崩壊である.すなわち,β崩壊は1つの中性子から陽子,電子,ニュートリノと複数の粒子が生成される現象であるので崩壊である.
しかし,原子核の安定性は陽子の安定性を根拠とすることが可能で,原子核の内部において中性子は陽子等の他の核子と束縛状態をつくるので安定している.このときでも,原子核の安定性は陽子の安定性が前提となっている.なぜなら,陽子が例えばp→e++π0のように容易に他の粒子に崩壊するならば原子核の安定性が確保されないからである.論理学的に表現すると,陽子が安定であるならば安定な原子核が存在するということである.同等の表現として,すべての原子核が不安定であるならば陽子は不安定であるといえる.
以上の議論をまとめると,分子,原子,原子核の安定性の根拠は電子と陽子の安定性にあると理解できる.実際に観測できる安定な物質は分子,原子,原子核,陽子,電子のいずれかであるから物質の安定性は電子および陽子の安定性に基づくといえる.ただし,ニュートリノのような特殊な素粒子を除く.
さらに,陽子についても同様の議論を行う.
図4に示すように,1つの陽子はエネルギーEが与えられると陽子自身のエネルギーが高くなって不安定となり,種々の中間子やバリオンが生成される.これらを分類することによってクオーク模型が得られる.
クオークは陽子を含めバリオンや中間子の内部を構成する物質と考えられるが,素粒子実験では陽子がクオークに崩壊するとは考えない.素粒子実験で粒子の崩壊というときは,バリオンについてみれば例えばΛ→p+e−+νのように最終的に陽子が残る過程である.なお,この過程は定義により粒子Λの崩壊である.また,クオークは単独では非常に不安定であり,電子や陽子が最終的に残るように崩壊する.図4に示すように,陽子とクオークについては崩壊の方向は安定化の方向と一致する.これに対して、分子や原子の崩壊では図1と図2に示すように崩壊の方向は安定化の方向と一致しない.
このことから,粒子の崩壊とは1つの粒子から複数の粒子が得られる現象であるが,それには方向性があって最終的には安定な電子または陽子が得られるように崩壊するということが分かる.まとめると図5に示すようになる.また,電子と陽子の安定性は他の物質の安定性を根拠としてないことも分かる.
崩壊によって最終的に残った電子と陽子が電気的に結びつくと水素原子となり,さらに,水素原子と水素原子が共有結合によって結びつくと水素分子となる.電子,陽子,水素原子および水素分子はどれも安定である.

制作:須田隆良(2000/5/21)