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一般相対性理論

ここからが本論である.今までは傍論である. 一般相対性理論によると,すべての物理法則は一般相対性原理を満たすべきであるという. とはいうものの,一般相対性原理は特殊相対性原理ほど当然とは思えない. 上述のように計量が座標系に依存しているためである. 思想的にも難解である. 私たちが基本的に知りたいのは,観測者が適当に設定した座標系において, 物体の運動する様子を記述する方程式である. 特に万有引力の相互作用を受けて運動する物体の運動を記述する方程式である. 一般相対性理論により計量が座標系に依存しているとなると,慣性系の概念があやしくなる. そのため,慣性系は存在しないとか あるいは絶対慣性系が存在しているとしか思えないような議論に 出くわすことがある. 観測者が適当に設定した座標系で, 慣性の法則が成り立っているものはすべて慣性系であると認めるべきであろう. 慣性の法則とは,すべて物体は,その静止の状態を, あるいは直線上の一様な運動の状態を,外力によってその状態を変えられないかぎり, そのまま続けることをいう.

次に,一般相対性理論によると,万有引力による場は加速度座標系(非慣性系)であるという. このことを等価原理という.この原理にも大きな問題がある. 万有引力の場が加速度座標系であるという等価原理は, 地球の万有引力によって地表に縛られている人間にとっては当然かも知れないが, 単純な質点の力学には馴染みにくい. 電磁気学で電磁場内に置かれた荷電粒子が加速度運動するのを見ても 加速度座標系(非慣性系)と考える必要はないからである. しかも物体の電荷によって電磁場から受ける力が異なっていても,完全に ローレンツ変換に対して共変な形式で運動を記述できているのに, たまたま重力質量と慣性質量が一致するからといって, 万有引力の場を加速度座標系と考えて,必ずしもローレンツ変換に対して共変でない一般相対性原理 に基づいて加速度座標系を計量で評価する手法は,かなりいびつな感じがする. 本来は単にローレンツ共変な万有引力の法則を知りたかっただけではないだろうか. また,加速度運動と計量とは無関係であるというのは誤った考えであろうか.

なお,ニュートンプリンキピアによれば, 万有引力は物体に外部から瞬間瞬間に強制的に加えられる撃力のように理解される. 外部から力が加わらなければ,物体は慣性の法則により静止を続けるか 直線上の一様な運動をするため,惑星のように楕円運動をするのは その惑星に外部から強制的に楕円運動をするような力が加えられた結果であるというのが ニュートンによる理解である. 運動の法則によって物体の運動を正しく記述できる限りにおいて, それが正しい解釈であろう.

ともかく,等価原理により,もし加速度座標系でなければ 万有引力の場がないので慣性系である. 例えば,自由落下するエレベータ内は慣性系である. 地球を周るスペースシャトル内は慣性系である. これについては慣性系でないという意見がある. どちらかに統一されないのはどちらでもいいからなのであろう. 同様に,太陽に自由落下するスペースシャトル内は慣性系である. 太陽を周るスペースシャトル内は慣性系である. ブラックホール(のようなもの)に自由落下するスペースシャトル内は慣性系である. ブラックホール(のようなもの)を周るスペースシャトル内は慣性系である. スペースシャトルの内部では,外部の様子を観察しないと, 地球に落ちているのか太陽の周りを周っているのかブラックホール(のようなもの) に落ちているのか判断できない.

このように万有引力の場(加速度座標系)があれば,適当な一般座標変換によって 局所的に万有引力を消すことができる.このことも等価原理という. 万有引力が局所的に消されることによって慣性の法則が成立している慣性系を局所慣性系という. 局所慣性系では物理法則はローレンツ変換に対して共変な形式で記述できる. すなわち,局所慣性系では物理法則は特殊相対論的共変な演算子と, 特殊相対論的共変なスカラー,ベクトル,テンソルとの組み合わせで記述できる. 局所慣性系では計量はηijであり, このような時空をミンコフスキー時空という. 一般相対性理論では時空とは計量をいう.

一般的な時空から一般座標変換によってミンコフスキー時空をつくる必要十分条件は

  (51)
である.Γkij はアフィン係数とよばれ
  (52)
で定義される.ここではアフィン係数Γkij の定義が必要であるだけなので 証明はしない. 一般相対性理論では式(51)を満たす時空のみを考えるというくらいの意味合いである. また,アフィン係数Γkij は計量を1階微分した量に関係あるということに注意しておく. ミンコフスキー時空では,式(52)によりΓkij=0である.

リーマンの曲率テンソルRbmij

  (53)
で定義される. リーマンの曲率テンソルRbmij は計量を2階微分した量に関係あるいうことに注意しておく. ミンコフスキー時空では Rbmij =0である.

リッチテンソルRnj

  (54)
で定義される.ミンコフスキー時空ではRnj=0である.

スカラー曲率Rは

  (55)
で定義される.ミンコフスキー時空ではR=0である.

一般相対論的に共変形式とは,一般相対論的共変な演算子と, 一般相対論的共変なスカラー,ベクトル,テンソルとの組み合わせで 物理法則が記述されていることをいう. 一般相対論的共変な演算子などの定義は次の通りである. 座標系Kの時間と座標をxi=(ct,x,y,z)と表記する. 座標系Kとは別の座標系K’の時間と座標を x'i=(ct',x',y',z')と表記する. 座標系Kでの物理量φ(xi)を座標変換し, 座標系K’での物理量φ'(x'i)を求めたとき

  (56)
となる 物理量φを一般相対論的共変なスカラーという.

座標系Kでの4元ベクトルU(xi)を座標変換し, 座標系K’での4元ベクトルU'(x'i)を求めたとき

  (57)

となる4元ベクトルU(xi)を一般相対論的反変ベクトルという. なお,
  (58)
は x から x’への一般座標変換である.

座標系Kでの4元ベクトルV(xi)を座標変換し, 座標系K’での4元ベクトルV'(x'i)を求めたとき

  (59)
となる4元ベクトルV(xi)を一般相対論的共変ベクトルという. なお,
  (60)
は Lij の逆行列であり,逆変換である.

2つの反変ベクトルAi,Bj の積

  (61)
となる Tij を2階の反変テンソルという.

2つの共変ベクトルAi,Bj の積

  (62)
となるTiiを2階の共変テンソルという.

反変ベクトルAi と共変ベクトルBj の積

  (63)
となるTij を2階の混合テンソルという. さらに,任意の高階のテンソルを定義することができる.

一般相対性理論によると,一般相対論的共変な万有引力の法則は重力場方程式とよばれており

  (64)
である.ここで,Gij アインシュタインテンソルとよばれ
  (65)
で定義される.8πG/cは万有引力の相互作用の強さを示す定数である. Tij は万有引力による時空Gij の源となる物体のエネルギー運動量テンソルである. 完全流体のエネルギー運動量テンソルは,流体の圧力を P とすると
  (66)
である.特に静止している場合には
  (67)
となる.

このように重力場方程式(64)は 数式的には方程式(1)の電磁気学の法則に類似した形式になっている. そのため,重力場方程式(64)は,なぜすべて物体間に万有引力が作用するのか, あるいはどうして万有引力定数が G=6.67×10-11N・m2・kg-2 であるのかといった基本的な問題には まったく無力である.

また,数式(66)のT00成分は物質密度であるので, 非相対論的な万有引力の法則に関係していることが分かる. T11,T22,T33成分は圧力であり, 万有引力は圧力に作用していると理解できる.

何度も強調したように,重力場方程式は特殊相対性原理を満たしていない. さらに特殊相対性理論によって修正された運動の法則および万有引力の法則から結論できる 結果と異なる結論を導き出す. 例えば,水星の近日点の移動や太陽による光線の折れ曲がりなどで, 特殊相対性理論によって修正された運動の法則および万有引力の法則から予想される値と, 異なる値を重力場方程式は予想する.その計算をここでは述べない. 重要なのは,共変形式で書かれた方程式(1),(2)が完全にマクスウェル方程式を 満たしているのに対して,重力場方程式(64)は特殊相対性原理によって修正された 運動の法則および万有引力の法則を完全に記述しているわけではなく,異なる結論が 導ける場合があるというところである.

私たちは特殊相対性原理および万有引力の法則が成り立っていない例を ただの1つも知らないのであるから,万有引力の法則を共変形式で 記述するという理論的な立場から見ると,重力場方程式(64)は単純に失敗例であると思われる. ところが,観測事実からは重力場方程式(64)は特殊相対性原理によって修正された運動の法則 および万有引力の法則から導き出せる結果を排斥しうる精度で正しいという. 私が一般相対性理論が正しいと確信しうるほどの実験をして確かめたわけではないが, なぜ自然は失敗例とも思える理論に合致するように観測されるのかというのが問題である. これは一般相対性理論における最大の謎である. 他の理論や原理を排除してまで,自然がそんな選択をする理由はまったく分からない. なお,特殊相対性原理は正しいが, それと合致しない一般相対性理論も正しいというのは論理的に不可能である.

一般相対性理論が正しいとなると,特殊相対性原理が破れている可能性がある. 例えば,一般相対性理論では粒子的地平線が,平坦な宇宙の場合,3ctで広がるという. ここで粒子的地平線とは,宇宙時刻t=0にある点から出発した光が時刻tまでに 到達した距離をいう.宇宙時刻とは,宇宙開闢から現在までの時間をいう. 信号が3cで伝達される可能性があるというところが重要である. 特殊相対性原理によると信号の伝播速度の上限は光速であるが,通信手段の発達した 現代ではそのような光速はむしろ遅すぎるくらいである. 国際電話などで信号の伝播速度の上限が光速であることを日常的に体験することができる. 信号の伝播速度の上限が光速であることが現実に通信の制約になっている. 信号の伝播速度の上限は光速でないほうがいい. 一般に,自然法則は自然認識を与えるものである一方, 自然を制御して利用しうる手段にもなるから, 一般相対性理論が正しければ, 粒子的地平線を平坦宇宙という条件の下で3ctで広げることで, 通信速度が3cとなる通信手段をつくることができる. そのような通信手段の実用的価値はきわめて高いであろう.


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